シャヒード、100の命
―パレスチナで生きて死ぬこと―

製作ノート

100 SHAHEED- 100 LIVES   
実現に向けて:
当初、展示にはインティファーダによるシャヒード全員を含めるつもりでした。しかし、死者数が増加の一途をたどるばかりだということが、じきに明らかになりました。そこで初めの100人のシャヒードに範囲を限定することになりました。地理的には、エルサレム、西岸地区、ガザ回廊、およびイスラエル領内のパレスチナ人居住区など、戦いの死者たちはあらゆる所から出ています。
準備の段階では、シャヒードたちのご遺族1人ひとりに親書を送り、当プロジェクトの主旨と、故人の形見として出品していただくにはどのようなタイプのものが望ましいかということを説明させていただきました。社会省のシャヒード関連事務局ならびに現場の担当官の皆さまには、ひとかたならぬご助力を賜りました。当プロジェクトのためにシャヒードたちの包括的なリストを提供してくださり、また遺族の方との接触の大半を引き受け、必要な情報や物品を入手してくださったのです。それに加えて、サカーキーニー文化センターが依頼した多数のフィールドワーカーの方々も、立ち入ることの難しい領域に踏み込んで補完的な情報を収集してくださいました。
プロジェクトの準備期間として当初は1カ月ほどが見込まれていたのですが、実際には3カ月半もかかってしまいました。パレスチナの町や村は孤立させられているため、それぞれのシャヒードの遺族たちと接触するのは不可能に近いことでした。このような窮状に加え、遺族の方々の嘆きと悲しみが個人情報の収集をさらにつらい作業にしました。準備作業の中でもこの部分はもっとも時間のかかるものでした──新しい情報や、物語や、逸話がひっきりなしに見つけ出され、集積され、追加され、整合性や正確さが検証され、編集され、翻訳されていきました。それでもなお、一部のシャヒードたちについては、その生涯についていまだにわずかなことしか分かっていません。この残された部分の究明は今後に委ねられた課題であり、その意味で当プロジェクトはいまだ進行中のものであるといえましょう。
形見の品が集められ、選別された後、そこにある多様なデザイン・コンセプトを融合して美術展のための統一デザインを作り上げる作業が、美術家のサミール・サラーメに託されました。わずか2週間ばかりの集中作業によって、彼は見事な手際でこの統一デザインを作り上げました。1つ1つの品は目立たない透明プラスチックの展示ケースに個別に収められ、それぞれのケースの上にはシャヒードの名前とモノクロ写真を記載した透明な紙が載っています。展示された物品の価値を強調するために、彼はそれらを丁寧に包装し、より糸のリボンで結んでケースに収めました。会場を散光で満たすことにより、美術展全体にひっそりとした完全性がかもし出されています。
それと並んで、美術家のシャリーフ・ワーケドが、カタログデザインの概念化を快く引き受けてくれました。それぞれのシャヒードには2ページがあてがわれ、その間に半透明の紙〔日本語版にはなし〕が挟み込まれてシャヒードの顔を覆い、美術展の展示ケースに呼応するような役割を果たしています。形見の品や肖像写真の色彩があまりに多様であったため、写真家イザベラ・デ・ラ・クルーズはセピア色でオブジェを撮影することにしました。やがてはそれがカタログの統一色に選ばれることになりました。彼女はまた、ご遺族から提供された多数の形見の品から展示用のオブジェを予備選出する作業も担当しています。その後、キュレーターのサミール・サラーメによって最終選考がなされました。
そのほかのカタログデザインは各段階でその都度見直され、できるかぎりミニマリズムに徹し、すべての内容が包括されていることが確認されました。シャヒード展がバーレーンに招へいされた折、同地のミラクル・グラフィックス社の取締役ハーレド・ジュムアーン氏のご厚意で展覧会用ポスターとカードが作成され、以降はずっとこれが使われています〔日本展では別のデザインを使用〕。
最初の展覧会は2001年2月20日にラマッラーのサカーキーニー文化センターで開かれ、大きな反響を呼びました。会期は延長され、地元メディアのみならず国際的にも大きく報道されました。ご遺族の方々のために一般公開とは別枠の特別訪問日も設けられました。展覧会を予定していたパレスチナの6都市のうち、今のところナブルスとナザレしかその実現に至っていません。パレスチナの外では、アラブ諸国中の6つの都市で公開されました。
最後に、わたしたちは、この象徴的、主観的、美術的なメモリアルがきっかけとなって、ほかの形での追悼や記念の試みが、自由を探求する過程で生命を失ったすべての人々のために、広がっていくことを願っています。アル=アクサー・インティファーダが終結したあかつきには、現在のものを残りのシャヒードたちも含めたものに拡大し、また常設できる場所を見つけて、戦いの死者への永続的な追悼の碑としていきたいと思っています。

クレジット:
プロジェクトの着想、コンセプト、運営、カタログ編集:アーディラ・ラーイディ
展示キュレーター:サミール・サラーメ
管理、調査:マナール・イーサー
展示コーディネーション:ムイーン・ハスーネ
フィールド・リサーチャー:シャーディー・バルグーティー、ズィヤード・ハンムード、ムハンマド・ハワージュリー、ラーエド・イーサー、ルーバ・タフブーブ
カタログデザイン・コンセプト:シャリーフ・ワーケド
カタログ写真:イザベル・デ・ラ・クルーズ
カタログ印刷:アドワー・デザイン
ウェブサイト(http://www.sakakini.org/shaheed)のデザイン:アラー・アラーウッディーン(インターテック社)
ポスターおよびカードのデザイン:ハーレド・ジュムアーン(ミラクル・グラフィックス社)

日本語版カタログの翻訳:岡真理、岸田直子、中野真紀子
日本語版カタログデザイン:秋山伸
日本語版カタログ印刷:株式会社フクイン
日本でのポスターおよび案内ちらしのデザイン:三枝泰之



戻る